〜目指すもの〜

「おいおいマジかよ、」

桃城が信じられないという口調で言った。

「あの不動峰の新顔野郎、海堂に喧嘩売りやがった。」
「勇気あるにゃぁ〜」

ベンチの後ろからは菊丸が身を乗り出す。

「あれって多分おチビとおんなじ1年生だよね。いきなりシングルス3に
持ってくるなんて…捨て試合かなぁ〜?」
「まさか。」

青学の副部長、大石が菊丸の言葉を否定した。

「不動峰の橘はなかなかの切れ者だ、きっと何か考えがあるんだよ。」
「だけどあいつ、最初っからビクビクオドオドしっぱなしだったんスよ?
いくらマムシの奴でも楽勝じゃないスか、なぁ越前?」

桃城に話を振られたリョーマはキャップのつばを指で押し上げて
面倒臭そうに言った。

「そんなのわかんない。見てりゃわかるでしょ?」

いつもどおりの紋切り型の言い方に桃城はこいつに聞いた俺が馬鹿だった、
とため息をついた。

「確かに見てみないとわからないね。」

不二がいつものように微笑みながら口を挟む。

「練習試合といえど橘が意味もなくオーダーを組むとは思えないし、
もしかしたらこの試合、只じゃすまないかもしれないよ。」
「た、只じゃ済まないってそんな物騒な…」

不二の横に座っている河村がオロオロしたが誰も取り合わない。

そんな風に話に花を咲かせている青学レギュラーの後ろで
妙に冷静な者たちがいた。
部長の手塚とマネージャーの乾だ。
手塚は腕組みをして表情を変えずにコートを凝視しており、乾はお決まりの
データ収集のためにハンディビデオカメラを構えている。
そのレンズは今回初登場した不動峰の新選手をしっかりと捉えていた。

「気になるな。」

乾はボソリと呟いた。

「何がだ?」

手塚が乾に目をやることもせずに問う。

「あの不動峰の新顔、どこかで見たような気がする。」

カメラを構えなおしながら乾は答えた。

「そーなの?」

たまたま2人の会話を耳にした河村が口を挟んだ。

「目立たない感じの子だけど…乾が覚えあるんなら
凄い選手なのかもしれないね。」
「確か関西弁を話していたな。」

乾が出し抜けに言ったので河村はうん、と答えながらも怪訝な顔をした。

「語尾に『とう』ってつけてなかったか?『言っとう』とか『しとう』とか」
「そこまでは…」
「そんなことを聞いてどうする?」

手塚が尋ねると乾は目を細めた。
(と言っても横顔からかろうじてそれとわかる程度だったが)

「思い当たる節がある、だが決定的な証拠がない。せめて言葉で関西の
どこの出身かわかるといいと思ったんだが。」
「もし乾の予想が当たったら…?」

河村が恐る恐る尋ねる。
乾はカメラのレンズから目を離さずに言った。

「不二が言ってたとおりだよ。この勝負、いくら海堂でもどうなるか
わからなくなるな。」

乾の眼鏡が一瞬強く輝いたのに気がついた河村は不安げにコートを見つめた。
海堂と不動峰の新顔の戦いは既に始まっている。

、か…」

乾はほとんど誰にも聞こえないような声で呟いた。

「あの噂が本当なら厄介かもしれないな。」

To be continued...



作者の後書き(戯言とも言う)

正確に言えばこれは夢小説ではないということはわかっております、ハイ。
しかし主人公の一人称だけではこういう場合限界があったもので…。

せっかく前の話で青学レギュラー全員出しましたしね。

ちなみにこの話はほとんどが元ネタの文章そのままです。
(誰も聞いてへんって)

乾少年の台詞を聞くと主人公には何か秘密がありそうですが…それはまだまだ秘密です。

次はいよいよテニスシーンの登場です。つたない文章でもお付き合いくださいませm(_ _)m

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